ドイツ語の子音~問題なのはRだけじゃない

ドイツ語の子音というと、Rが問題とされることが多いのですが、もちろん問題となる子音はそれ以外にも数多くあり、ネイティブと直にコミュニケーションをかなり取ってからでないとその問題に気が付かない、または指摘されない問題もあります。

間違いの原因は、発音のカタカナ表記ばかりでなく、日本語のローマ字表記にもあると私は考えています。このため、日本語の発音も正確に知った上で、ドイツ語の発音との違いを明確にする必要があるかと思います。


生きた言語を学ぶことは、知識を身につけるというよりも、水泳やダンスのステップのように身体的なトレーニングという側面が大きいので、正しい発音を訓練するのはもちろん、たとえいまいち正しくない発音でもどんどんその言葉を使って、使うことに慣れることも重要です。私たちは子どもの頃、日本語を「舌足らず」に発音していたはずです。それと同じように、外国語を話す際も、初めのうちは舌足らずで構わないのです。そのフェーズを経た後の正確なゴールを目指していくことが肝要です。


正確な発音が重要な理由

巷には、ドイツ語は「スペルと発音がほぼ規則的だから簡単」ですとか、「カタカナ読みで大丈夫」などという説が溢れています。それが完全に間違っているというつもりはありませんが、正確な発音を初めからマスターすることには次の利点があります。

  1. 発音の悪さは相手に不快感を与え、理解するための集中力を強要することになり、相手の好意に甘えています。つまり、相手が好意的でなければ相手にしてもらえない、無視される、通じないなどの問題が生じます。発音が正確であればそのようなことは起こりません。

  2. 発音の正確さで一人前に見て貰えます。

  3. 相手に余計な集中力をかけないので普通のドイツ語ネイティブと同じように対応してもらえます。

  4. 結果、コミュニケーションが円滑になり、発音の悪さによる誤解を回避できます。

  5. 聞き取り能力も同時にアップします。人間は知らない音を聞き取ることはできません。

  6. 最初にカタカナ的発音で覚えると、聞き取りできるようになるまで時間がかかり、発音矯正や聞き取りトレーニングが二度手間になります。最初から正しい発音を学んでいれば、結局のところ時間の節約になります。


ドイツ語の子音の種類

下の図は国際音声記号の子音表をもとに、ドイツ語の子音と日本語の子音のみを抜き出して私が作成したものです。日本語のみに存在する子音は、ドイツ語のみに存在する子音は黒、両言語に共通する子音はでマークしてあります。


左端の行見出しは発声方法の種類を表しています。上の列見出しは発生の場所を表し、左から右に向かって唇から咽頭へ移行していきます。

別に覚える必要はありませんが、参考までに調音器官の図を下に入れておきます。



発音方法

母音と違って、子音の方は日独語に共通する音が結構あります。

両唇破裂音 p b: ドイツ語のpとb(ただし語末は除く)は日本語の「パ」や「バ」から母音「ア」を抜いた音と同じです。

歯茎破裂音 t d:ドイツ語のtとd(ただし語末は除く)は日本語の「タ」や「ダ」から母音「ア」を抜いた音と同じです。

軟口蓋破裂音 k ɡ:ドイツ語のkとg(ただし語末は除く)は日本語の「カ」や「ガ」から母音「ア」を抜いた音と同じです。

声門閉鎖音 ʔ:この音はドイツ語でも日本語でも母音で始まる語の前に自動的に入ります。これがあるせいで、先行する子音と語頭の母音がつながらないのです。

両唇鼻音 m:ドイツ語のmは日本語の「マ」から母音「ア」を抜いた音と同じです。

歯茎鼻音 n:ドイツ語のnは日本語の「ナ」から母音「ア」を抜いた音と同じです。

軟口蓋鼻音 ŋ:ドイツ語の ng は日本語で、カ行またはガ行の前に来る「ン」と同じです。

歯茎摩擦音 s z:ドイツ語の ß/ss と s(ただし語末は除く)は日本語の「サ」や「ザ」から母音「ア」を抜いた音と同じです。

声門摩擦音 h:ドイツ語の h は日本語の「ハ」から母音「ア」を抜いた音と同じです。HUという音節では発音に注意です。日本語の「フ」は両唇摩擦音 [ɸ]のため、ドイツ人には FU と認識されやすいです。

硬口蓋近接音 j:ドイツ語のjは日本語の「ヤ」から母音「ア」を抜いた音と同じです。

歯茎破擦音 t͡s:ドイツ語のzは日本語の「ツ」から母音「ウ」を抜いた音と同じです。


残念ながら日本語にはない音も多いです。

ふるえ音 r/R: ドイツ語のRの音には歯茎ふるえ音の[r]と口蓋垂ふるえ音 [R]の2種類あります。日本語のラ行の音は地域差や個人差がありますが、おおむね、歯茎はじき音[ɾ]かそり舌のはじき音[ɽ]です。このため、発音している場所からすれば、主に南ドイツで使われる歯茎ふるえ音の[r]の方が近いです。さらっと「ラ」と言うのではなく、素早く「ルラ」という感覚で、rの音をふるわせて長くすることを意識するといいかもしれません。

対して口蓋垂ふるえ音 [R]は、日本語に似た音がないので、初めて聞いた時は「r」の音と認識できない人がほどんどだと思います。この音は、水なしでうがいをするかのように口蓋垂(喉ちんこ)をふるわせます。練習が必要ですが、慣れるとLの音と区別しやすくなるのでお勧めです。

例: Recht, rennen, richtig


唇歯摩擦音 f v: ドイツ語のf/vの発語が [f]、ドイツ語のが [v] なので、英語のスペルに馴染んでいると大変紛らわしいのですが、音自体は難しくはありません。[f] は唇歯音という名の通り、唇と歯の摩擦で音を作ります。具体的には上の前歯で下唇を軽く噛んで息を吐きます。[v]は同じ方法ですが声帯を震わせる有声音(濁音)です。

日本語の「フ」の音は両唇摩擦音[ɸ]、つまり上下唇を軽く触れ合わせて作られる音で、歯を使っていないので、歯を使うことを意識してください。

例: fahren, Fehler; Vater, von; Waage, Wagen, wiegen


歯茎摩擦音 ʃ ʒ: ドイツ語の sch /(ch) [ʃ] は日本語の「シ」から母音「イ」を抜いた音 [ɕ] に近いですが、舌の位置がやや前よりで、唇を丸めます。舌の位置を意識するよりもただ「唇を丸く」を意識するといいでしょう。外来語にしかありませんが、その濁音である j g(e) [ʒ] も同様です。「ジ」を抜いた音 [ʑ] に近いですが、唇を丸めます。

例: Schale, schade, Japanisch, Chance; Jogging, Genre, Garage


硬口蓋摩擦ç: ドイツ語の ch [ç] は i や e などの前舌母音や、子音の後にのみ現れる音で、Ich-Laut と呼ばれます。日本語の「ヒ」から母音「イ」を抜いた音に近いですが、舌の位置がやや手前になり、緊張感が高い音です。「イー」という時のように思いっきり口を両端に広げて発音します。

例: China([ki:na]の発音されることもあります), ich, Märchen


軟口蓋摩擦x: ドイツ語の ch [x] は a や o などの後舌母音の後に現れる音で、Ach-Laut と呼ばれます。日本語の「ハ」から母音「ア」を抜いた音よりも手前の軟口蓋で舌の付け根の方を盛り上げて摩擦を作って発音します。

例: Koch, kochen, auch, noch


歯茎近接音 l: ドイツ語の L [l] は舌をはじかずに上前歯または歯茎に舌先をつけたままで、息を舌の両脇から吐き出して発音します。

この発音は Land、Leute のような語頭でも、Plan、Pflanze、klein、gefällt のように語中でも、egal、idealのように語末でも変わりません。その点では英語とは違うので注意が必要です。


口蓋垂摩擦・近接音 ʁ: ドイツ語の r [ʁ] は母音の後に現れます。発音する場所は、うがいするような口蓋垂ふるえ音 [R]と同じですが、ふるわせるのではなく、舌背を口蓋垂に近づけて発音します。r が母音化して暗い「ア」のように聞こえます。

例: Art, ehrlich, Ort, Ordnung


南ドイツなどの歯茎ふるえ音の[r]を使う地域では母音の後でも音が変質しません。


唇歯破擦音 pf: PFはいかにもドイツ語的な子音の連なりですが、PとFを別々に発音しようとするとかなり困難をきたします。カタカナ的発音の「プフ」などはもってのほかです。

発音のコツは、あらかじめ上前歯で下唇の内側を軽く噛んだ状態で「プ」っと息を吐くことです。そうすると両唇破裂音のPの発音とほぼ同時に唇歯摩擦音のFが生成されます。試しにやってみてください。「プフ」と意識するよりもずっと発音が簡単なはずです。

例: Pfanne, Pflanze, Kampf, hüpfen


後部歯茎破擦音 tʃ dʒ: この音は、tsch や主に英語からの外来語 ch と表記されます。日本語の「チ」や「チュ」から母音を抜いた音[] に近いですが、舌の位置がやや前よりで、唇を丸めます。舌の位置を意識するよりもただ「唇を丸く」を意識するといいでしょう。その濁音である dsch も同様です。「ジュ」(語頭)から母音を抜いた音 [dʑ] に近いですが、唇を丸めます。

例: Deutsch, checken; Dschungel


実演動画はこちら。


目次

5:49  正確な発音が重要な理由

14:03 日独共通の音

14:13 両唇破裂音 [p], [b]: p, b

14:38 歯茎破裂音 [t], [d]: t, d

15:03 軟口蓋破裂音 [k], [g]: k, g

15:18 声門閉鎖音 [ʔ]: 母音で始まる語の前

15:59 両唇鼻音 [m]: m

16:23 歯茎鼻音 [n]: n

16:33 軟口蓋鼻音 [ŋ]: ng

17:11 歯茎摩擦音 [s], [z]: ß/ss, s

18:21 声門摩擦音[h]: h

19:48 硬口蓋近接音 [j]: j

20:10 歯茎破擦音 [ts]: z

20:49 日本語にはないドイツ語の子音

21:03 ふるえ音[r], [R]: r

24:24 唇歯摩擦音 [f], [v]: f/v, w

27:15 歯茎摩擦音[ʃ] , [ʒ] : sch/ch, j/g(e)

30:10 硬口蓋摩擦音[ç]: ch

31:44 軟口蓋摩擦音[x]: ch

33:26 歯茎近接音 [l]: L

35:17 口蓋垂摩擦・近接音 [ʁ]: r

36:46 唇歯破擦音 [pf]: pf

38:48 後部歯茎破擦音 [tʃ], [dʒ]: tsch, dsch




ドイツ語ランキング


サイト会員になると無料メルマガ「Mikakoのドイツ語通信」とブログの更新情報の通知をお受け取りになれます。ぜひご登録ください!

134回の閲覧

フォローする

  • Facebook
  • Twitter
  • YouTube

応援する

© 2019-2020 by Mikako Hayashi-Husel. Proudly created with Wix.com