「中指・薬指・小指」をドイツ語で考える

最終更新: 7月13日

これまで、親指と人差し指を見てきましたが、今回は残りの指のジェスチャーや表現をまとめてご紹介したいと思います。


人差し指+中指 Zeigefinger und Mittelfinger


人差し指と中指を立てて、手の平を相手に見せるようにするのは「Vサイン(Victory-Zeichen)」として知られていますが、これの向きを変えて、手の甲を相手に見せるようにすると、イギリスでは侮辱のジェスチャーになります。その起源は100年戦争にあります。イギリスの長弓射手は中指で弦を張るため、中指にタコができて太くなっていました。「その中指を切ってやるぞ」とフランス人がこのジェスチャーで脅したのだそうです。当のフランスではこのジェスチャーは忘れられてしまったようですが、やられた方のイギリスでは侮辱のジェスチャーとして今に伝えられています。ドイツにはもちろんありません。

人差し指と中指をクロスさせる(Gekreuzte Finger)は、特に英語圏で幸運を祈るジェスチャーで、イギリスでは National Lottery、米国ではOregon- und Virginia Lottery のロゴとして使用されています。このジェスチャーの起源に関してはいくつかの説があります。


一説には、指をクロスさせることによって魔女や悪霊に憑りつかれたものを退散させると信じられていた、魔除けの仕草に遡ります。

これはまた、キリスト教が迫害されていた時代に、お互いにクリスチャンであることを示す合図として使われたことに始まるという説もあります。

もう1つは、キリスト教以前のヨーロッパにあった、元は二人の人間が人差し指と中指をクロスさせ、一人が願い事を言い、もう1人がそれを保証するという慣習が元になっているという説です。こちらは、十字が統一の象徴であり、よい精霊がその交差する点に住むという信仰に基づいており、その交差点に願をかけることで、その願いが叶うまでそこに保持されるということを指をクロスすることで象徴していたそうです。後に二人ではなく一人で自分のために願をかけるジェスチャーとなり、それが一般化して現在の幸運を祈る意味となった、とする説です。


ドイツでは、背中で人差し指と中指をクロスさせることで、今自分がした発言や誓いが嘘であることを表します。これは、 Hexenkreuzchen(魔女の小十字) とも呼ばれます。主に10代の女の子がやるジェスチャーですが、これも元は一種の魔除けのようなもので、約束や誓いを破っても神の罰を受けないようにするためだったようです。それにしても、この程度のおまじないで罰を受けなくても済むなら、ずいぶんちょろい神様ですよね。


[補足]日本では、この仕草は「エンガチョ」「エンガ」「ビビンチョ」「エンピ」「バリヤー」などと地域によってさまざまに呼ばれ、主に子どもによってある種の穢れの感染を防ぐために使われます。「穢れを防ぐ行為」は古来よりあるとされ、13世紀ごろの『平治物語絵詞』には信西の生首を見ている人々が人差し指と中指を交差させている図が確認できます。ただし、エンガチョの仕草にはこれ以外にも、両手を用いて人差し指と親指で輪を作って交差させる、右手の中指と薬指を交差させる、親指を人差し指と中指の間に入れて握り拳を作る、人差し指と親指で輪を作る、両手の人差し指を繋ぎ、第三者に切り離して貰うなどのバリエーションがあります。

「エンガチョ」の語源は不明ですが、網野善彦によると、エンは穢や縁を表し、チョは擬音語のチョンが省略されたもので、意味としては「縁(穢)を(チョン)切る」を表すとしています。他に「因果の性(いんがのしょう)」の転訛とする説、「縁が千代切った」の略とする説などがあります。


中指 Mittelfinger


中指単独でするジャスチャーは、日本では「ファックサイン」と呼ばれる拳を握って中指を立て怒りや侮辱を表現するものです。

「ファックサイン」というのは和製英語で、このジェスチャーをする際に「Fuck you!」と言うことが多いことからそのような名称になったと考えられますが、英語圏ではただ「the finger」と呼ばれます。ドイツ語では Stinkefinger と言います。



このジェスチャーはすでにギリシャ・ローマの古代から存在し、中指は勃起したペニスを、それを挟む折り曲げられた人差し指と薬指が陰嚢を象徴します。そこには男根(Phallus ファルス)崇拝が根底にあり、力、繁殖力、豊穣を意味しています。男根崇拝は世界中の様々な文化に見られました。

たとえば、古代ギリシャ(紀元前5世紀頃)のお皿のようなものには羽の生えたファルス(ギリシャ語では phallos)が描かれています。


イタリア・ポンペイの出土品には寺院を象ったリリーフの中にファルスが彫られています。



インドのリンガ崇拝もよく知られてますが、日本では、愛知県の田縣神社の豊年祭りや兵庫県の立川神社のご神体・金精神などが有名です。



こうした素朴で少々宗教的・呪術的な意味の他に、中指には性的で卑猥な意味もあり、ラテン語ではdigitus impudicus 「ふしだらな指」と呼ばれていました。この系譜を継ぐ表現としてドイツ語には「Stinkefinger machen(くさい指をする)」があり、女性器をいじることの暗喩として1990年くらいまで使用されていました。しかし、それ以降はもっぱら「ファックサインのジェスチャーをする」という意味で使われています。


このファックサインは、男根崇拝の中でも特に「力の象徴」の系譜を引いており、パプアニューギニアなどの原住民が敵に脅しをかけるときにわざわざ(ペニスケースに入った)ペニスを見せつける風習とその攻撃性や侮蔑性が共通しているのはないかと思われます。もちろん、現代では性的で卑猥な意味も加わり、身体的性的な辱めを暗示する実に下品なものになっていますが。


怒りの感情をさらに強調するために、ファックサインを作った手を腕ごと下から突き上げるようにし、もう一方の手で上腕部を押さえてそのストロークを受け止めるようにすることもあります。個人的になぜそういうジェスチャーで怒りを表現しなきゃいけないのかよく理解できませんが、実際に相手を殴ることに比べたらまだ平和的?なのかもしれませんね。

薬指 Ringfinger

第四指は「Ringfinger 指輪の指」と一般に呼ばれますが、古くはラテン語の digitus medicinalis の訳である Arztfinger(医者の指)という名称も使われていました。

Digitus medicinalis は、本来は中指を指していたのですが、前述のように卑猥な意味を持つようになったことから、軟膏などを塗る医療行為を卑猥さと区別するために第四指に変更されたという経緯があります。


日本語では「薬指」の他に「薬師指」「医者指」という名称が、digitus medicinalis やArztfinger の訳語に当てられました。

他に、和語では「お姉さん指」や「紅差し指」という名称もありますが、最も古い名称は「名無し指」です。これは中国から伝わってきた名称で、現代中国語の「无名指(wú míng zhǐ)」に相当します。

なお、ロシア語(безымянный палец)、ブルガリア語(безимен пръст)、トルコ語(adsız parmak)、フィンランド語(nimetön sormi)でも「名無し指」と呼ばれているそうです。

さて、欧米の多くの国では、婚約指輪 Verlobungsring を左手の薬指に、結婚指輪 Trauring を右手の薬指にはめる習慣がありますが(スイスとイタリアは逆)、これは古代、左の薬指から血管が直接心臓につながる、すなわち愛情につながると信じられていたことによります。この迷信に基づいて古代エジプト人やローマ人は左の薬指に結婚指輪をはめていました。


薬指は独立で動かすことが難しい指であるため、薬指だけを使ったジェスチャーはありません。

小指 der kleine Finger


医学用語では「第五指 der fünfte Finger」と呼ばれますが、和語には「赤ちゃん指」という呼び方もあります。


日本では小指を立てながら「これ」と言うと(女性の)恋人・愛人を指しますが、そうした用法はドイツにはありません。


一時期、物を持つときに小指を立てることが貴族社会で「エレガント」とされていたため、小指のことを Gesellschaftsfinger(上流社会の指)と呼ばれていたこともあります。


日本では、約束をする時に小指を曲げて互いに引っ掛け合い、上下に振って「指切拳万、ついたら千本呑ます」と約束を違えた時の名目上の罰を内容とするまじないの言葉を共に唱えて確認する風習があります。これに相応するものがドイツにはありませんが、イギリスとアメリカには指切りとそっくりな「pinky swear」と呼ばれる風習があります。こちらは約束を破った人の指を折るのが罰の内容です。



そういった誓いとは全く関係ないのですが、ドイツ語には jemanden um den kleinen Finger wickeln(誰かを小指に巻き付ける)という慣用表現があります。これは、「誰かをたやすく操る、誘惑する」という意味です。

小指には通常、あまり力が入りませんので、その小指でできることは「たやすいこと」であるという連想が働くため、次のような慣用表現もあります。

  • etwas im kleinen Finger haben(何かを小指の中に持っている)=何かをよくできる

  • etwas mit dem kleinen Finger machen(何かを小指でする)=何かをついでにする、何の苦労もなくする。

親指+小指 Daumen und kleiner Finger


親指と小指を立てて、親指を鼻につけ、そのまま手首を左右にやや回すことを eine lange Nase drehen(長い鼻を回す)と言います。



このジェスチャーに「Ätschibätschi」という意味不明の呪文のようなものを言い添えることが多いですが、これは「ざまあ見ろ」「バカが見る~」のような人をバカにするジェスチャーです。もう一方の手を同じような形にし、その親指を鼻先につけている手の小指に絡ませて「長い鼻」をさらに延長させることで、バカにする意味をさらに強調することもできます。基本的に子どもっぽいジェスチャーですが、上のアーカイブ写真のようにスターリンがやってるのを見ると、なんとも大人げない感じがしますね。

人差し指+小指 Zeigefinger und kleiner Finger


中指と薬指を親指で抑えながら、人差し指と小指を立てるジェスチャーは、イタリア語で mano cornuta(角付きの手)と呼ばれます。


歴史的には二つ意味があり、1つは寝とられ男(gehörnter Mann「角を付けられた男」)または稀に寝取られ女 (gehörnte Frau「角を付けられた女」)を暗示するもので、もう1つはこれを下に向けて、魔除けのサインとするものです。

チベット仏教でも、このジェスチャーはムドラー(印相)の1つで、karaṇa-mudrā と呼ばれるヤクの角を象った魔除けサインです。


1970代後半からは、上向きの角付きの手ジェスチャーがメタルシーンで一体感を表すジェスチャーとして導入され、一般に「メタルサイン Metal Sign」、ドイツ語では「Pommesgabel(フライドポテト用フォーク)」と呼ばれています。メタルシーンと縁のない人間にとっては無縁のジェスチャーですね。




終わりに

ジェスチャーを通じて日独を超えた比較文化論になってしまいましたが、お楽しみいただけたでしょうか。



よろしければ、動画版もご覧ください。




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